座布団が行司にクリーンヒット

九州産馬、佐賀競馬、地方競馬、アビスパ福岡を応援しています

「九州産馬」を考える

トライアルや新馬・未勝利戦から霧島賞ひまわり賞と続いた夏の九州産馬限定戦線が終わりました。
霧島賞テイエムヨカドーやコウユーヒーローなどが参戦しレベルの高いレースになりました。
一方ひまわり賞は評判の高かったメモリアルイヤーが怪我で放牧となり出走できなかったのが残念ではあります。
しかし今年も夏の荒尾競馬場小倉競馬場を賑わせてくれた名物レースの数々だったと思います。
ただこの時期になると限定戦について色々と声が聞こえてきます。掲示板やブログなどで見かける声で特に多いのは
「低レベルのひまわり賞に存在価値はあるのか」というようなこと。昨年は競馬で飯を食っている人たちの中にも
そんなことを言い出す人がいましたが、この件に関しては以前反論しました。
毎年恒例ではあるけれど - 座布団が行司にクリーンヒット
例の記事に対する反論のようなもの - 座布団が行司にクリーンヒット
この時に追記したかった「九州産馬限定競走の存在意義について」を一年越しになって申し訳ありませんが
自分の考えを書いてみようかと思います。あくまで私個人の意見として見ていただければと思います。
実は昔のブログを読み返してみると同じような内容のことを何度も書いているのですが、改めて現在の考えを
九州産馬の基本的なこと、成り立ちや馬産地の状況などを改めてまとめつつ、書いて行こうかと思っています。
間違いなどありましたら指摘していただけるとありがたいです。

九州の馬産の歴史

戦前

九州産馬限定競走の始まりは日本競馬会の前、帝国競馬協会や競馬倶楽部の時代にまで遡ります。
私もしっかりとJRAの蔵書などを調べたわけではないので正確なことは分かりませんが、こちらのサイトによれば
初めて九州産のレース名が見えるのは1933年5月18日、北九州市の北方競馬場で開催された「九州産明四歳馬特別」。
凪的電脳賽馬−重賞日程 1933年
“ÁŽê‹£‘–E2 / “ú–{‹£”n“Ç–{
北方競馬場は小倉競馬場の旧称。現在の小倉競馬場小倉南区北方4丁目で、地名にちなんで名付けられました。
他にも「九州産馬小倉特別」など合計3レースが行われています。翌年には4レースに増えているようです。
同じ並びには「帝室御賞典」というのがありますが、これは天皇賞の前身。天皇賞と同じ格の重賞だったわけです。
1933年といえば日本が国際連盟を脱退した年で、日本が第二次世界大戦に傾きかけていた頃ですね。
日本は第一次世界大戦後から国策として軍馬生産に取り組んできたことから、九州もその一大産地の一つでした。
こちらの表は特殊競走(重賞)のレース一覧で、この時代国内では九州産だけしか産地の限定競走がないようです。
馬産振興のために当時から存在し、特別視されていたことが分かります。非常に古い歴史と伝統があるわけです。
1937年まで5年間行われた後は各地の競馬場が「日本競馬会」に統合、特殊競走としては行われなくなりました。
しかし一般競走としては以前から行われたかもしれませんし、これ以降も続いているかもしれません。一般戦には
他の産地の限定戦もあったかもしれません。しかし特殊競走に存在したのは九州産馬限定戦のみ。
このように九州産馬限定競走は一朝一夕に成り立っているわけではなく、歴史と伝統のあるレースということです。
ちなみにこの頃1920年代に活躍したレンドという九州産馬がいました。
かつて天皇賞の前身『帝室御賞典』を制した九州産がいた - 座布団が行司にクリーンヒット
http://homepage2.nifty.com/zaireisai/
http://nidangyakufunsha.web.fc2.com/meiba_hyakka/rendo.html
帝室御賞典などの当時の大レースを制した馬で、レースの格で言えば過去最強の九州産馬かもしれません。

戦後

戦後の混乱の中、日本競馬会から国営競馬、そして日本中央競馬会発足後も九州産馬限定戦は続きました。
しかし戦争が終わって軍馬生産としての役割を終えた九州の馬産は大きく様変わりしていくことになります。

1936年(昭和11年)以降は第二次馬政計画が実施され、生産目標の規定と生産地のより細かい指定が行われるとともに、軍用馬保護法、馬の去勢法など生産に関する法令が整備されました。しかし1945年の敗戦で、占領軍 GHQの命令により日本の馬に関するすべての施策、関係団体などは消滅しました。そして全国民が栄養失調になっていた戦後の混乱期は、国の施策として食糧増産が取り上げられ、馬のことを口に出すことすら非国民扱いにされ、生産はもちろん研究に至るまでかなりの制約を受けました。その後1948年に新競馬法が、1954年には日本中央競馬会法が公布され、日本の馬産は競馬一色のスタイルに転身しました。

http://zookan.lin.gr.jp/kototen/uma/u323_3.htm

今でこそ競走馬生産は北海道に集中し、日高は「優駿のふるさと」として、全国に名を馳せていますが、戦後の馬産が開始された1955年には日高は全国の14%、北海道全体でも17%に過ぎなかったのです。当時日高の牧場をしのぐ牧場数を誇っていたのは、太平洋側東北各県と南九州各県でした。日高は全国的には競走馬生産の数のある地域の一つに過ぎなかったのです。戦後の馬産振興地帯は北海道、青森、千葉です。しかし、青森や千葉は牧場数で一時増加したものの、すぐ減少に転じました。それに対し、北海道のみが生産地帯としての役割を拡大してきたのです。
 競走馬経営は、放牧地、採草地、馬場、施設用地などの広大な土地が必要であり、北海道以外は都市化・地価高騰のあおりを受け、また、労働力の高齢化、後継者不足によって牧場数は減少しています。また、競走馬生産は、種牡馬を始め、生産資材、馬具、獣医、装蹄、馬輸送、共済、保険、情報、支援組織等関連産業と関係をもつことなしには成り立ちません。そのため、馬産は主産地に集積する傾向にあり、日高地方が戦後競馬の発展とともに日本馬産の主要集積地になってきたのです。
 戦後の競走馬産地は旧馬産地から引き継がれたとはいえ、戦前の馬(軍馬・農耕馬)とは、飼養管理・技術やコスト体系が異なり、馬が競走馬として特化するにつれ、旧馬産地の多くは解体・縮小し、北海道・日高地方のみに集中するに至ったのです。つまり、戦後、日高は「生まれ変わった」のです。また、競馬の国際化は、さらに高度な飼養管理・技術と関連施設・組織を必要とし、そのことが日高をさらに集積地にさせたのです。

http://www.k3.dion.ne.jp/~kamishin/horse.htm

かつて大馬産地だった下総、小岩井ですら生産数が激減していった中、九州も同様の状況でした。
その理由はまさに上記の通りで、軍馬から競走馬への転換においてもっとも成功したのが北海道、特に日高地区など、
新しい「競走馬」というジャンルにおいてノウハウ、施設などで他の地域よりも先んじ、突出していきました。
一方で遅れをとった他の地域はその流れに乗ることができず、後手を踏んで衰退の一途を辿っていったと。
それ以上に土地の広さの違いがあるでしょう。九州と北海道の牧場の地価を直接調べたわけではありませんが、
なぜか九州には北海道のような広大な放牧地、牧草地を備えた牧場というのがないんですよね。かつては存在したの
かもしれませんが、どんどん縮小していったのかもしれません。とにかく九州にはあまり大きな牧場がない。
戦後九州で馬産が衰退していった原因についてもっと深いところについては今後の自分への課題にしたいと思います。
とりあえず分かる範囲で九州産馬の生産減少についてこれからまた書いていきます。少しレースの話に戻ります。


戦後も九州産馬限定競走は続いていきます。正確にいつから始まったかまでは調べられていませんが、
1960年代には既に存在していたようです。ひまわり賞はかつては「九州産3歳特別(九州産3歳S)」として行われ、
以前は「朝日杯」の社杯でした。たんぽぽ賞は「九州産4歳特別」として行われました。霧島賞は同名のまま今も
続いていますが、かつては「日本経済新聞杯」でした。この当時九州産馬の活躍がめざましかった時期があり、
1970年代前後にはキングスピード、フエロースピード、ニルキング、ゴールドイーグル、ケンセイグッド、障害では
ツカサパワー、アラブも地方ではタガミホマレやスマノダイドウが活躍、中央ではコーリュウシンゲキが
重賞・シュンエイ記念を制すなど平地・障害・アラブ、どの分野でも躍動しました。1980年代以降になると
九州産馬の重賞制覇はぱったり途絶え我慢の時代に。ケンセイグッドの勝利以降、コウエイロマンが出るまで
中央平地重賞勝利は17年間も待たなければなりませんが、そんな暗黒の時代にも九州産アラブが頑張りました。

九州産アラブ馬の頑張りと中央競馬アラブ競走の廃止

中央ではビンチトールとヨドノチカラがタマツバキ記念を制し、地方ではホーエイヒロボーイなどが活躍。
古くから九州産はサラブレッドよりアラブが走ると評判で、アラブの生産がかなり賑わった時期がありました。
九州産アラブ限定レースもありました。つい最近まで佐賀・荒尾競馬場でも重賞として行われるほどでした。
戦前の軍馬改良時代に政府に目をつけられたのはアングロアラブでした。当初政府はサラブレッド生産を
推奨していましたが、ひ弱な面があったため方針転換し、丈夫で粗食に耐え、維持管理も容易なアングロアラブ
生産を推奨するようになりました。戦後も各地方競馬でアラブは重宝されました。大人しく頑丈なため連闘にも耐え、
競馬場に頭数が少なくてもレースを組める。まさに地方競馬にうってつけの種でした。戦後全国で地方競馬
開催された時に主役を張っていたのが、軍馬が不必要となった日本で新たな活躍の場を求めたアラブたちでした。
サラブレッドは仔が産まれて走ってみるまで分からないというギャンブル要素をはらむものです。サラブレッドと
比較するとアラブは、良血馬あるいは現役時代の成績が優秀な馬の仔はそのまま走る確率が高かったと言います。
だから生産者としてはアラブ生産は「計算ができる」と好評だったと聞きいたことがあります。
アラブの生産で安定的な経営をしつつ、サラブレッドの生産で一発を狙うという好循環な時期があったのですが
それが大きく崩れ去っていく出来事が起きました。1995年JRAアラブ競走の廃止でした。
http://www.jbba.jp/statistics/seisan.html
1972年に4000頭を越えたアラブ年間生産頭数はその後2000頭台で安定していましたが、JRAのアラブ競走廃止で一気に
減少に転じます。追随するように地方の各競馬場でもアラブのレースが消えていったのは記憶に新しいところ。
そしてついに全国の競馬場からアラブ系単独レース開催が無くなり、日本競馬におけるアングロアラブはまさに今、
消滅寸前にあります。ある意味でアラブでもっていたと言われても過言ではない九州の馬産地はこの影響をもろに受け
生産をやめる牧場が急増、ますます衰退していく状況になってしまったのでした。そして現在までに至ります。
アラブの廃止は九州馬産だけでなく、アラブ競馬が主流だった競馬場にも大きな打撃を与えました。
アラブのメッカと呼ばれた園田はその賞金の高さ、首都圏への近さによる売り上げの多さからサラブレッド競走への
移行に成功しましたが、アラブ廃止後つい最近まで赤字経営でした。アラブがいなくなったことでサラブレッドを
新規に入れようにも、賞金や手当ての低さから敬遠されて質の高い馬が集まらない。名前を出せば高知・福山・荒尾、
アラブが多かった競馬場に影響を与えています。競馬場間のレベル格差はアラブ廃止サラブレッド交流拡大により
ますます広がるばかり。馬不足の今こそ頑丈で連闘も利くアラブが必要なのでしょうが今後生産がまったく見込めない
現状ではサラブレッドに頼るしかない。アラブ廃止で九州産も地方競馬もかなりの被害を被ったのです。

九州産馬の現況とこれから

最近の九州産馬年間生産頭数の推移は2005年66頭、2006年66頭、2007年98頭、2008年88頭、2009年87頭。
九州の生産者が一致団結して新規繁殖牝馬の導入などによりある程度盛り返してきました。
北海道などと同様、牧場従事者の高齢化も進んでいます。一方で後継者育成、新規牧場開拓に成功しつつあるのが
熊本県で、過去大きく開きがあった生産頭数も鹿児島県に迫りつつあります。今後は鹿児島においても
後継者の育成は大きな課題になってくるでしょう。九州内には今年に入って新たに新規参入する牧場も存在します。
競馬界全体の不況に影響され色々と苦労しつつも、新たな芽が育ちつつあるのも九州馬産の特徴と言えるでしょう。

九州産馬について

九州に馬産は必要か

九州産馬限定戦云々を飛び越えて、「九州で生産牧場なんて必要なのか」とおっしゃる人もいるかもしれません。
それを言うなら日本国内に生産牧場が必要なのでしょうか。日本で競馬を行うに際して別に日本国内で生産を行わない
という選択肢だってあるわけです。香港やシンガポール、ドバイは完全に馬資源は海外に依存していますし、
競馬場がある国=馬産地では必ずしもないのです。馬の性質により産地に適する地域は限られるからです。
人件費も施設費も土地代もバカ高い日本で馬産を行うより、関税を撤廃して海外から安くて質の高い馬を輸入して
競馬を行えばコストは安く抑えられるでしょう。現に工業界では既に生産の拠点を人件費その他が安い外国に
移転してしまっている例は数多く存在しますし、その形態で成功している分野もたくさん存在します。
しかし一方で国内の産業空洞化、就職率の低下を招いてしまい、問題視されています。これとまったく同じことです。
日本でなぜ生産をするかと言えば「競走馬の生産」という産業が非常に大きな存在としてそこにあるからです。
就業者、関連する分野の業種に至るまで、日本で生産していることでかなりの経済効果が生まれているはずです。
また日本の馬産はJRA地方競馬とかなり密接に連動しています。北海道の生産界が躍起になってホッカイドウ競馬
廃止させまいと動いているのはそのためです。また、日本の競馬た競走馬生産は最早「伝統・文化」になっています。
ばんえい競馬が世界的にも珍しく、地域全体で守っていこうという気運が高まっているのはご存知の通り。
九州だって同じです。関東や東北の馬産もそうですが、小さいなりにも馬産が一つの経済として成り立っていますし、
古くからの伝統を守り続けたいと努力する人たちがいるのです。九州でも飼料から施設費、人件費など北海道と同様に
かかっていますし、地元に多くのお金を落としているのです。せっかく経済として回っているものを規模が小さいから
と言ってわざわざ潰す必要も無いでしょう。九州の馬産は中でも佐賀競馬荒尾競馬と密接に繋がっています。
荒尾競馬場では九州産馬限定レースが行われていますが、それだけ多くの九州産馬が荒尾に入厩しています。
佐賀にも毎年多くの九州産馬が入ります。特に荒尾は馬不足に悩まされており、九州産馬の存在は必要不可欠です。
だからこそJRAから受け継いだ九州産馬限定戦は馬集めのコンテンツとして絶対に残しておきたいはずなのです。
九州の馬産地だって受け入れてくれる競馬場が無くなっては困るわけで、両者は一蓮托生の存在。これは上で記した
北海道の馬産とホッカイドウ競馬の関係と全く同じものです。九州産は九州の競馬界に求められている存在なのです。
近年廃止が続出している地方競馬でもはやこれ以上廃止される競馬場が一つでも出てくれば、生産界にとっても
大きな打撃となります。日本全体の馬生のことを考えれば、九州産の存在意義は非常に高いものがあるわけです。

JRA農林水産省

そもそもJRAは「馬の健全な発展を図って馬の改良増殖その他畜産の振興に寄与するため、競馬法により競馬を行う
団体として設立される」「農林水産大臣の監督を受け政府が資本金の全額を出資する特殊法人」と競馬法にあります。
農林水産省の生産局畜産部競馬監督課が監督し、畜産・馬産地振興のために存在する特殊法人なのです。
だから九州の馬産のために限定競走を実施するのは当然の義務とも言えるわけです。しかしそんなJRAも最近はあまり
馬産地振興のために動いているとは思えなくなってきています。近年は有名な外国馬の出走を促すために高額賞金を
立てる一方で、父内国産馬奨励金の廃止、市場取引馬奨励金の廃止、各種手当て・下位賞金を次々と減額するなど、
日本国内の馬産を振興させるどころか、コストカットの名目で弱体化させているようにしか見えません。
JRAはとにかく売り上げの確保ばかりに気を取られ、その為には生産界や地方競馬が犠牲になってもいいとすら
考えているような節があります。本来の目的を見失ったJRAは今後どこへ行くのか、何の為に存在するのでしょうか。
一方農水省はどうかというと、現場の人たちにとってはJRAと同様に振興策に物足りない部分が多いようですが、
昨年は「馬産地再活性化緊急対策事業」として50億円を補正予算案に盛り込んだことがニュースになりました。
農林水産省が補正予算案に「馬産地再活性化緊急対策事業」として50億円を盛り込む - 座布団が行司にクリーンヒット
「馬産地再活性化緊急対策事業」50億円が政権交代により凍結 - 座布団が行司にクリーンヒット
サラブネット
これは政権交代で白紙に。この予算に関しても、これまで馬産振興の為に使われた予算も、そのほとんどは北海道内で
使われたものです。北海道でも特に生産が集中している地域に使われてきました。数が多いところに金が集中するのは
仕方のないことですが、九州を始めとした北海道外の地域にはこういったお金が使われることは非常に少ないのです。
馬産にはただでさえ多額の投資が必要です。大きな規模になれば億単位のお金が動くことなどはザラ。しかし
九州ではそういった設備投資に関しては常に後回しにされて、北海道との差は広がる一方になっています。

北海道と九州の地理的隔たり

北海道と九州は日本の北端と南端に位置し、交通機関が発達した現在でも移動には長い時間と労力、そしてお金が
必要です。馬匹輸送に関しても以前に比べて格段に良くなってはいますが、輸送に際して馬への影響は少なくない。
九州に北海道と同等の施設や種牡馬がいれば地元で何でも済ませることはできますが、そうではない現実があるから
わざわざ北海道に出向いてまで種付けなどを行っているのです。JBBAの種付けに関しては輸送に補助金が出るらしく
いくぶん負担は軽減されています。九州産馬で北海道の父の名前を見るとJBBAの種牡馬が多いのはその為です。
補助が出たとしても、母馬にかかる輸送時の負担は大きく移動の際の死亡例もあるようです。ソフトとハード両面で、
さらには補助・助成金にまで北海道とは大きな差がありますが、それでもなお生産者さんたちは頑張っています。
また、北海道と九州には気候の違いがあります。さらには土壌や水質にも違いはあります。サラブレッドの生産は
日本では北海道が中心なので「寒冷地で生産され、温暖な地域に生産は向かない」と思われがちです。高温多湿な
九州ではサラブレッドの風土病もあるなどとも言われましたが、海外ではアメリカ、アイルランド、オーストラリア
などでの生産頭数が抜きん出てはいますが、南アフリカ、南米やインドなど温暖な地域でも生産は行われているので
気温は関係ないでしょう。土壌や水質に関しては多少影響はあると思います。アイルランドが馬産大国なのは
湧き出る水にミネラルが豊富でサラブレッドに適す水質であるといいます。同じく土壌も、より良い牧草が生える
土質というのはあるでしょう。しかし近年は人工飼料などの質と安全性は高まってきていますし、古い時代でも元々
九州では北海道より軍馬生産が盛んだったわけですから、気温や土壌水質の差は多少なりともあるでしょうが
サラブレッドの質を左右する決定的な差にはならない気がします。あくまで個人的な見解としてでは、ですが。
逆に九州は冬季に積雪が少ないので年間を通して野外での育成が可能で、育成に関しては北海道よりは向いていると
思っています。JRAの日高育成牧場と宮崎育成牧場の出身馬の成績に差があるのは、価格帯の高い期待馬が日高に
入厩することと、単純に施設の差でしょう。日高にはJRA最新鋭の技術を投入した施設が広大な土地に満載されており
今後も拡大が可能だそうですが、宮崎は周辺が市街地化してこれ以上の施設拡充は無理で、坂路などもありません。
九州にも同じくらいのお金をかけて広大な育成牧場を建設すれば大成功すると思うのですが(笑)。
宮崎育成牧場はJRAが管理している施設。南九州におけるJRAの存在感というか、今は競馬こそ行われていませんが
かつての大馬産県・宮崎で残っている数少ない競馬の象徴なのです。宮崎がサラブレッドの生産地だということを
知っている一般人や競馬ライトファンは少ないものです。育成牧場の面では綾馬事公苑や宮崎育成牧場があるので
なんとか認知はされているようです。そんな宮崎育成牧場も存続の危機に立たされて状況です。
宮崎育成牧場 廃止の危機か - 座布団が行司にクリーンヒット
宮崎育成牧場内にWINSが設置されましたが、これは厳しい牧場の経営を支えるために作られたのののようです。
JBBA那須種馬場が閉所 47年の歴史に終止符 - 座布団が行司にクリーンヒット
JBBAの各種馬場もここ数年で下総、那須と次々と閉鎖され、次は九州ではないかと生産者の皆さんは危機感を
覚えています。宮崎育成牧場やJBBA九州種馬場の現状を見ても九州には十分に馬産地振興のための支援が
成されているようには思えません。削減するところと増援するところを掛け違えていないでしょうか。

競馬の面白さとは

JRA、マスコミ、ファンの姿勢

競馬は馬と人が織り成す究極のドラマです。競馬をギャンブルとしてだけ見るのなら馬の存在なんていりません。
データ内で競走馬同士を競わせ賭けが成立さえすればいいなら、ゲーセンのコインゲームで足りるはずです。
しかし一部の競馬ファンからは「障害は平地を諦めた奴らが集まる、よく分からない面白くないレース」
地方競馬は弱い馬ばかりだから存在価値がない」「アラブ? サラブレッドより遅いならなくなって当然」
というような声も聞かれますが、平地のG1レースだけで競馬は成り立たないわけです。下で支える根っこが無ければ
枝も伸びなければ花も咲かない、それを分かっていない人が多すぎるのではないでしょうか。そんな悪い風潮を
先頭に立って流布しているのがJRAのような気がしてなりません。各種手当てなどを減らし、国際G1レースやシリーズ
などへの賞金ばかりを増額し続ける近年のJRAの姿勢は度が過ぎています。それを持て囃すマスコミ連中もおかしい。
確かに話題になって「売れる記事」になるのは上位の格のレースではあるでしょうが、競馬の根本たる面白さを
追求して取り扱う競馬マスコミ、競馬ライターがどれだけいるでしょうか。アラブ廃止、最近の地方競馬の情勢など、
常にマイナスな観点からしか見ようとしない。厳しい情勢であることは確かです。しかしそういう時こそプラス方向で
情報を発信して、自分たちこそが消え行く競馬文化を守っていくんだ、というような姿勢が一向に見えない。
悪いニュースはお金になるかもしれませんが、弱い者いじめで身を立てるようなやり方は私は好きではありません。
そして恐ろしいのが「無知」さ。内々での情報収集、調教タイムの計り方や予想の仕方は得意かもしれませんが、
自分の担当以外の分野に関しては全くと言っていいほど知らないし、興味も持たない、という人が多い気がします。
競馬のすべてを知れとは言いませんが、競馬で飯を食っている人間ならば浅く広く、多くの分野である程度の知識は
知っているべきでしょう。それを知ろうとしないどころか、自分の無知さを棚に上げて知らない分野に対しては
馬鹿にするような態度を取る人がいる。記事を見ているとよく分かります。九州産馬に関してもそうです。
ちょっと調べれば分かるようなことを知らないまま自分の想像と固定観念と蔑視する視点で書き上げ、
そんな記事を読むからなおさら勘違いする競馬ファンも増える。興味の無い分野を無視する以上に性質が悪い。
地方競馬などの現状を対岸の火事と見えないふりをせず、競馬界全体の危機として意思を共有してほしい。

競馬の「多様性」

話を戻しますが、私は競馬の面白さはバリエーションの豊富さにあると思っています。先に述べたアラブやばん馬など
馬の種類によるレースの違いがあります。海外ではトロッター種の競馬等も行われていますね。中央競馬地方競馬
各競馬場の違い、距離・コースの違い、芝とダートと海外ではポリトラックス、日本では平地と障害だけですが
海外では繋駕競走など様々な種類の競馬があって馬券も売られています。外国産と国内産、国内においても
九州産や本州・東北産、北海道内ですら細かい地域で違う産地として表記されます。美浦も北と南があります。
これらそれぞれの違いが競争心理を生み、そして他分野からの挑戦が競馬予想などの面白さを生み出すわけです。


ハイセイコーオグリキャップがあれほどまでに人気になったのは「地方から挑戦者」だったことも大きな一因です。
ある条件では無類の強さを誇る馬でも、競馬場や距離の違いによっては苦手とするコースが存在します。
逆に負け続けていた馬でも得意のコースで復活を遂げることがあります。ウオッカは府中以外ではどうなのかとか、
スマートボーイはダート1800でこそだとか、京都の鬼オースミロッチだとか、道悪巧者だとか小回り適正だとか、
同じ距離の同じコースばかりで走っているだけでは出てきません。同じ馬ばかりでもこうはいきません。
血統による違いは関係者にとっては購入するかしないか、生産者にとっては走る馬を生産できるかどうか、ファンに
とっては予想における大きなファクターとなります。すべてサンデーサイレンス産駒では競馬は成り立たりません。
生産界においては流行の血統に人気が偏るのは仕方ない部分もあるのですが、生産者個人個人が日本競馬の将来の
ことを考えて配合し生産を行っているでしょうか。昔から芝クラシック戦線至上主義でダート路線が軽視され続け
ブルーコンコルドクラスが種牡馬になれず、一方ではコスモバルクポップロックなどが日本では種牡馬として
価値を見出されず、海を渡って活路を見出そうとしている。生産・血統界にこそバリエーションは必要なのです。
そうしなければ近い未来、いつか必ず血統の行き止まりに辿り着いてしまうとは以前から指摘されていることなのに。
目の前の利益につながることに流れてしまうのは仕方のないことではありますが・・・。


競馬の多様性・多面性こそが面白いレース作りになると思いますし、馬券の売り上げにもつながると
私は思っています。しかし今の競馬界、JRAはどうでしょうか。国際化が叫ばれてきた中で日本はパート1国となり
念願が叶いました。そして今まで以上に外国有名馬の招致に躍起になっています。強い外国馬を招くことは
それぞれの戦線に新鮮な魅力を加え、レースが面白くなるので大事なことだと思います。しかし一方でJRA
バリエーションを減らす動きばかりしている気がするのです。例えば中京競馬場の改修、直線を長くして
ゴール前に坂を作り中央開催の競馬場と同じようにする……なぜ同じにするのでしょうか。そんなことはもう
他の競馬場に沢山あるから要らないのです。中京には中京特有の性質があり、それが面白かったのに。
2010年から2012年まで中京競馬場改装工事 - 座布団が行司にクリーンヒット
そりゃあコースを広くしてコーナーも緩やかにすれば馬も騎手も走りやすくはなります。でもそれって面白いの?
海外競馬場の名コースと呼ばれる所は自然の傾斜や起伏をそのまま利用していたりします。日本でそれは難しい
でしょうが、工夫次第ではどうにでもなるのです。障害における「たすきコース」や「バンケット」はそんな
カーブや高低差を人工的に作ったもので、バンケットのようなものは日本にしか存在しないものだそうです。
アメリカではたすきコースで平地レースを行っている競馬場もあります。これらは多様性を人工的に作り出したもの。
今回の改修で中京競馬場からはたすきコースが無くなり、ただ同じところをグルグル回るだけの障害コースに。
中央開催と同じような競馬場が一つ増えるだけでなく障害に関してはコンテンツを一つ減らしてしまうとは…。
どうせ競馬場を改修するのなら今までにないコースなど導入すべきです。その点で新潟直線は大成功でしたね。

日本競馬の国際化

来年からJRAで拍車の使用が原則禁止に - 座布団が行司にクリーンヒット
2011年度からJRAでもムチの使用制限? - 座布団が行司にクリーンヒット
さらには国際化の名の下に拍車の使用が禁じられ、今度はムチの使用にまで制限を加えようとしている。
パート1国になったということは、日本の今現在行われている競馬が世界に認められたということでしょう。
それはJRAだけが認められたのではなく、日本競馬全体がパート1国になったということなのです。
日本グレード格付け管理委員会が発足し日本国内でグレードを定めることができるようになったことで、
地方競馬でも基準を満たせば国際グレード競走を行えるようになり、大井競馬が開催に向けて準備を行っています。
また国際セリ名簿でも日本の生産界は世界と同等の扱いを受けることになりました。国際的なスタンダードに
並ぶよう努力するのも国際化ですが、日本独自で発展してきた競馬を世界に認めさせるのも国際化だと思うのです。
不必要なところまで過剰に外国を真似することはないでしょう。日本はパート1国になる前から馬券の売り上げに
関しては突出するものがあり、その点に関しては格上の国だって調査しに来て帰国後真似をする所は多かったのです。
何でもかんでも海外至上主義、海外からの評価を気にしすぎるのは日本人の悪い癖です。堂々と胸を張りましょう。

九州産馬は重要な競馬コンテンツの一つ

このように競馬の多様性について語ってきましたが、九州での馬産というのも同じことです。北海道内ですら
地域による競争心理があります。これ以上そのバリエーションを積極的に潰す必要はまったく無いと思います。
「どうして九州産馬だけ限定戦があって恵まれているんだ」と言われますが、私は他産地の限定戦もあっていいと
思います。むしろもっと増やす方向に進むべきです。かつて船橋競馬には千葉県産馬限定戦があったそうですし、
以前から岩手競馬には東北産馬限定レース「銀河賞」がありました。昨年は開催されませんでしたが、
これを復活、あるいはJRAで行うくらいまで昇華させてもいいさえ思っています。開催するなら福島でしょうか。
ただ東北は北海道から近いので施設なども利用しやすく輸送費も九州からに比べれば段違い。そしてG1勝ち馬や
重賞勝ち馬を幾度となく輩出し九州産馬に比べて高いレベルにありますからね。千葉県産馬は…数年前までは
毎年20頭弱は生産してきましたがかなり減ってきているようです。千葉県産だけでなく茨城県栃木県なども含め
関東一円、あるいは東北以外の本州全体からかき集めても50頭いくかどうか。限定戦を行うにはある程度まとまった
頭数が必要になってきます。近年は東北産馬も生産頭数も年々減少してきているようですし、産地活性化のために
限定戦があってもいいと思います。岩手競馬のこともありますが、まず銀河賞には復活してほしいですね。


九州産馬に関する批判も、それだけ話題になっているということ。私のような偏屈の九州産馬オタクを生み出し、
私だけでなく他にもたくさんの方々が九州産馬を応援しています。この気持ちは地元の地方競馬を応援したり、
地元プロスポーツチームに声援を送ることと同じです。「おらが町の」という気持ちがファンに熱を与えるのです。
また、地元に競馬場や馬生産地があるという土壌もまた大切なのです。JRA地方競馬には非常に多くの九州出身者が
働き活躍しています。中には競馬や馬産にまったく無関係の中からこの世界に飛び込んだ人も働いているでしょうが、
多くの人たちは地元九州の競馬、牧場に影響されてこの世界に入った人がほとんど。九州には古くからの馬産地の
土壌が色濃く残っているのです。九州出身の馬主さんたちもなぜ小倉競馬場にたくさん出走させるのか、
それは地元で勝ちたいと願う気持ちでありプライドです。九州の競馬を盛り上げようと熱意にあふれています。
http://www.sponichi.co.jp/gamble/news/2010/09/03/05.html
人材育成にも貢献してきた九州の馬産 - 座布団が行司にクリーンヒット
松永幹夫調教師「九州の馬産地復活の架け橋になるのが僕の使命」 - 座布団が行司にクリーンヒット
「九州産なんて要らない」と簡単に言う人がいますが、背景にどれだけのものが存在しているのかということを
ある程度知った上で発言していただきたい。それでも不必要と言うのなら納得できる理由もつけてお願いします。
いろいろと言われる前に九州の馬産自体が自壊してもいけません。上でも書いたように九州には新しい動きも
出てきています。熊本だけでなく大分県には新たに牧場もできました。中津競馬場の廃止などで一度は
なくなりかけた大分の競馬の火がまた吹き返そうとしています。九州の生産者さんたちの九州産にかける思いは
非常に熱いものがあります。私も九州から競馬の火を途絶えさせてはいけないと
それくらいの気概でこれからも九州産馬を応援していこうと思います。

九州産馬限定競走について

レースレベル

九州産馬については文句はないけど、限定レースはおかしい」と言う方もいらっしゃるので、こちらにも言及して
おこうかと思います。よく九州産限定戦について聞かれるのが「レースレベルが低い」というもの。
当然です。レースレベルが高ければ限定戦なんてしなくていいのですから。限定戦とはその字面通り出走条件を
限定してそのカテゴリーの馬を守る、奨励していくことが目的なのです。最近まで長い間「父内国産馬限定戦」が
存在しましたが、廃止になりました。近年父内国産馬の活躍がめざましく外国産馬を凌駕する産駒が多く出てきて
その割合も生産の4割を占めるほどにまで伸びてきたというのも要因のようです。
http://www.equinst.go.jp/JP/arakaruto/keibabook/081130shin15.html
外国でもカナダ三冠はいまだにカナダ産馬限定ですし、韓国など馬産後進国ではダービーなど主要レースを含め
多くが内国産馬限定戦となっています。これは自国の生産馬がまだ外国産馬に太刀打ちできないからです。
以前行われていたアラブ系レースもサラブレッドとの間にスピード差があったがためのある種の限定戦でしたし、
市場取引馬限定戦(古くは抽せん馬)もありました。現在では馬齢による限定、牝馬限定、クラシックG1は
いまだに日本馬産振興のために外国産馬の解放枠は一部です。外国にはもっと数多くの種類の限定戦があるとか。
馬齢限定や牝馬限定は当たり前だと思われるかもしれませんが「レースレベルが低い」のはこれらも一緒です。
牝馬に関しては相対的に牡馬より能力が低くなるので生産しても売れなくなる恐れがあり(実際価格は安い)
繁殖のことも考えて牝馬限定戦があります。地方競馬では今年からグランダムジャパンが始まりました。
もし今後九州産馬からG1馬や重賞勝ち馬が続出して北海道産馬と肩を並べるくらいまで強くなれば限定戦は
終わることになるでしょう。あるいは九州の馬産がもはや興隆の兆しがないほどにまで衰退してしまえば、
具体的にいえば生産頭数が激減すれば限定戦は開催されなくなるでしょう。そうでない限りは今後も続きます。
ただでさえ九州は北海道に比べて様々な面で大きなハンデがあり、限定戦も必要不可欠な存在だということは
上の方で散々述べてきましたので分かっていただけたかと思いますが、それでも九州産馬限定戦があるから
「九州は恵まれている」とおっしゃる方がいらっしゃったら、是非九州で牧場を始めてもらうか、九州産馬
購入して走らせてみてほしいですね。価格帯が安いということは購入しやすいということなので、
この不景気の時期にその点をいっそ強調材料にして、九州産馬への購買意欲が高まればいいなと思います。

「持ち込み九州産馬

「九州以外で種付けした種牡馬の産駒が九州産馬限定戦を走るのはおかしい」とおっしゃる人もいます。
九州産馬限定戦からいわゆる「持ち込み九州産馬」の出走を排除して、九州で繋養されている種牡馬の産駒のみに
出走資格を与えるべきだと。仮にそれを実行したとします。そうすると九州産馬のレベルは今以上に低下することは
避けられませんがそれでもいいのでしょうか。別々の人が言っているのでしょうが「九州産馬限定戦はレベルが低い」
「だから廃止しろ」と言う人がいれば、「持ち込みは九州産らしくなく、卑怯だからやめろ」と言う人もいます。
彼らは一体九州産馬に強くなってほしいのか、それとも弱くなってほしいのか。それぞれが勝手に九州産馬
固定観念で語り、九州産馬はこうあるべきだとレッテルを貼ろうとしているだけのような気がしてなりません。


話を戻しますが、私も前は九州産馬限定戦は九州内種牡馬に限るべきでは、と思っていました。今も九州で繋養されて
いる種牡馬の産駒(私は「純九州産」と呼んでいましたが)が活躍すると嬉しいです。仮にレースレベルが
格段に下がったとしても限定戦というのは本来そういうもので、それが九州の馬産の為になるのではないか、と。
しかし今は考えを改めています。九州に良質な種牡馬がたくさん集まればそれも可能でしょうが、実際には九州に
それほどの種牡馬の数も質も集めるのは無理です。生産頭数は回復しているとはいえまだまだ100頭にも満たない
状況ですし、繁殖牝馬すべて同じ種牡馬につけられるわけではありませんから種牡馬を導入しても採算が合いません。
では種付け料を上げたらどうかというと、種付け料が高額になれば誰も種付けしません。九州では個人所有種牡馬から
JBBAの種牡馬も含め、種付け料は大体10万円です。高くて20万円程度。それ以上高い種付け料を設定すると
九州産馬はそもそもの価格帯が安いですから赤字になってしまうのです。いくら北海道に負けないような血統馬でも
九州のセリ市ではその辺で馬主さんたちに足許を見られていますから、どうしても安く買い叩かれてしまう。
北海道まで種付けに行く生産者は輸送費や輸送における繁殖牝馬への影響に加え、売却時の価格のこともリスクとして
つきまとうわけです(オーナーブリーダーは別ですが)。JBBAにマークオブディスティンクション並の種牡馬
種付け料10万円でやって来てくれるなら最高なのですがそんな幸運なことはそうそうありませんし、仮に九州で
成功を収めれば数年後には青森や北海道に栄転してしまう可能性もあるのです。実際、マーク(略)はそうなる寸前で
夭逝してしまったと聞いています。現役時代の成績が優秀な馬や種牡馬実績がある馬はそもそも最初から九州に
やって来ることはありません。重賞クラスは来てもG1馬がいきなりやって来るようなことはなく、他所で種牡馬
していた馬が移動してくる際は高齢で種付け数が減っていたり、実績を残せず新天地を求めて来る馬ばかり。
九州産過去の名馬 九州にかつていた種牡馬 - 座布団が行司にクリーンヒット
1980〜 JBBAの種牡馬一覧 - 座布団が行司にクリーンヒット
このように九州内に質の高い種牡馬が集まる可能性は低く、現状で九州産馬限定戦を「九州内種牡馬産駒」の限定戦に
したとしてもレベルが低下するばかりで九州の馬産のためにはならないでしょう。九州産の今後のことを考えれば
北海道の種牡馬を種付けに行った方がレースレベルは高くなります。また上でも書いたように、北海道まで種付けに
行くにしても受胎中の繁殖牝馬を導入するにしても経費面その他で九州で種付けするよりもリスクは高くなります。


一つの例がテイエム牧場です。九州で生産事業を始めて10年以上、かなりのお金をかけてきたものと推測されます。
垂水の地に一から牧場を作り始め、今年やっと育成施設も完成。まさに10年がかりだったわけです。いくら社員が
手作りでコツコツ広げていったとはいえ、牧場施設は莫大な資金が必要です。さらに当初から九州産馬の中では
種牡馬レベルは段違いでした。初めて九州でサンデーサイレンス産駒、ブライアンズタイム産駒を送り出し、
他にもラムタラ産駒、ナリタブライアン産駒、トニービン産駒、スペシャルウィーク産駒など、当時の日本種牡馬界で
種付け料上位の父を種付けしてきました。テイエムオペラオーが引退してからはテイエムオペラオー産駒の九州産馬
毎年恒例になっていきました。この10年間で重賞勝ち馬はテイエムトッパズレテイエムチュラサンの2頭、
ひまわり賞馬はテイエムマズルカテイエムチュラサンテイエムキューバの3頭、霧島賞馬はテイエムジカッド、
テイエムヨカドーの2頭。これらの成績は成功しているか失敗なのか判断は分かれるところでしょうが、
いくら多額の資金を投入しても必ずしも成功するわけではないのがサラブレッドの生産というもの。
九州内の安い種牡馬を種付けし続けてリスクや経費を抑え、それでもひまわり賞霧島賞を勝った馬はいます。
各牧場によって方針は違います。持ち込みでも九州内種牡馬でも「強い仔を作り出す」という目標は一緒です。
竹園オーナーの「九州からダービー馬を作る」という考えとこれまで実行してきた行動には本当に感服しています。
限定戦はあくまで通過点に過ぎません。これをステップにしてより強い相手に向かっていくわけです。


九州の馬産を活性化させる為には「持ち込み九州産馬」は必要不可欠な存在であり、現在の九州産限定レースの
出走条件はそのままでいいと思います。持ち込み馬は特に牝馬に関しては血統の停滞を防ぐ意味でも必要です。
常に新しい血を入れていかなければ発展は見込めません。しかし一方で九州ではなかなか「名牝系」が育たない面も。
アラブではそういう血統はあったようですが、サラブレッドにおいてはある程度は活躍馬を次々に輩出する牝系が
出ては来るものの、新しい時代についていけず途絶えてしまうことも多いようです。現在九州でもっとも活発な
牝系は、コウエイトライをはじめとしたコウエイ冠がつく伊東牧場のダンツビューティ系ではなかろうかと思います。
コウエイソフィアビッグレッドファームに購買されて繁殖生活を送っているように、九州産馬の血統が北海道に
逆輸入される例も出てきています。九州独自の牝系というのも今後は伸びていってほしいところですね。

九州への振興策は?

九州産馬限定戦が存在する理由は九州の馬産振興の為だということは上で述べてきたことですが、別に振興のためなら
レースでなくてもいいのです。ひまわり賞は1着賞金1,600万円、総額賞金は3,040万円。霧島賞は以前より賞金が減り
1着賞金800万円、総額賞金は1,200万円ほど。これらを廃せと言う人はいてもその後の九州馬産をどのようにすれば
いいかという振興策を語る人はいません。仮に廃止した場合JRAが浮いた賞金と同額のお金を毎年九州の馬生産地に
投入すればまだいいですが、そんな保証もありません。JRAはここ数年で父内国産馬や市場取引馬への奨励金を廃して
きましたが、その代わりになるようなものが生産地に与えられたかと言えばまったくそんなものはありません。
G1の賞金や重賞レース数を増やしても、そんな上位のレースにおいては「社台の運動会」と揶揄される現状において
中小の牧場や馬主にとっては何の効果もなく、むしろ下位賞金や奨励金を増やしてくれた方がよほど嬉しいでしょう。
生産馬1頭に対し○○万円の補助金を出せなどという露骨なことは言いません。そんなことをしても競争力の低下しか
招きませんし、「ばらまき」と批判されるだけです。その点限定戦というのは割と合理的なものだと思うのです。
九州に対しての馬産振興がそもそも足りていないというのに、これ以上減らす意味はないでしょう。

九州産馬限定戦に対する関係者の想い

北海道産にとっては単なる2歳オープン競走と古馬1000万下競走かもしれませんが、九州産馬にとってはかなり高額で
魅力的な賞金を目指し、生産者や馬主たちが切磋琢磨し競争する、それでもそうそう簡単に勝つことはできません。
九州産馬限定戦はレベルが低いと言われるかもしれませんが九州内においては競争心を促していますし、ここを勝てば
次は強い一般馬相手に戦えるかもしれないという自信にも繋がるレースなのです。さらに言えば九州の生産者にとって
ひまわり賞霧島賞は九州産の象徴とも言うべき存在です。特に霧島賞かつて小倉競馬場で行われていた頃から
「九州の天皇賞」と呼ばれ、今も昔も変わらず九州の生産者にとっては是が非でも獲りたいタイトルなのです。
既に障害界で各個たる地位があったコウエイトライや、南関東で重賞を制していたコウエイノホシなどがその年の
夏の大目標に掲げていましたし(どちらも出走は実現しませんでしたが)、テイエムヨカドーは中央時代は3回挑戦し
中央1000万下を勝った後は地方移籍し、今年4度目の挑戦でやっと初制覇を果たしたのは記憶に新しいところです。
これほどの馬たちが日本最南端の競馬場まで遠征のリスクもあるにも関わらず、荒尾競馬の財政状況の厳しさで全体の
賞金が下がっていたとしても、絶対に勝ちに行きたいという存在、それが霧島賞なのです。それが分からない人たちが
「どうしてこの馬がこんなレースに遠征するんだ?」と言ったりしますが、九州関係者の機微を読み取れていない。
高い賞金、それを上回るレースの「格式」、これを目標にして九州の生産者たちは良い馬を作ろうと努力しています。

夏の小倉の九州産2歳馬限定戦

ここでちょっと九州産馬限定戦がなぜレースレベルが低いと言われるのか、ひまわり賞が特にそう言われることが
多いので説明しておこうと思います。よく話題に出るのがタイムの比較によるもの。ひまわり賞を含め夏の小倉
芝1200mで開催される九州産馬限定新馬・未勝利戦のタイムが他の2歳同条件よりも遅いから、というもの。
確かに走破タイムというのは勝ち馬・レースレベルの一つのものさしになりますが、あくまでものさしに過ぎません。
全頭同条件でもう一度走れば間違いなく変わってきます。そんな「水物」ですから、いちいちそれだけで強い弱いと
全てを論じられるわけではありません。常に好タイムで好走する馬がいても勝てなければ一生未勝利馬なのですから。
また、この時期の九州産馬限定戦やひまわり賞のタイムが遅いのには理由があります。それは馬によって適正差が
大きいからです。夏のローカル開催時期に出走してくる2歳馬というのは、その世代の中でも特に仕上がりの早い馬、
2歳時期からも活躍できる早熟気味の馬が集まります。まだ仕上がっていない成長段階の馬は入厩すらしていない
馬もいたりします。通常クラシック戦線で活躍するような馬たちのデビュー時期は早くても秋以降に集中します。
しかし九州産2歳限定戦は夏の小倉開催でしか行われませんから、仕上がっていようが無かろうがとにかく出走だけは
させてみるという陣営が多いのです。さらには小倉芝1200mでしか行われませんので好走できる馬は限られてきます。
2010年度版「超個人的」オススメ九州産2歳馬 - 座布団が行司にクリーンヒット
↑こちらの最下部で2007年産の活躍馬を紹介していますが、一般未勝利戦で勝ち上がった馬の中に芝短距離で
初勝利を挙げたという馬は1頭もいませんでした。ダート替り、芝でも中距離以上で初勝利を挙げた馬ばかりです。
時期もやはり秋以降が多いようです。古馬混合の1000万特別で好走し、霧島賞でも2着に入ったコウユーヒーローは
小倉の限定未勝利戦では勝ち馬と3.2秒差をつけられた17着でしたが、初勝利は10月京都ダートの1800mでした。
本来ならば父母の血統や調教での走りっぷりを見れば適性はある程度分かるのでしょうが、ひまわり賞は2歳において
九州産馬の大目標ですから適正がまったく無い馬でもとりあえず出走させてしまい、レースレベルは低くなります。
そして限定戦を勝ち上がりひまわり賞を制すのは中でも比較的早熟で小倉芝1200m適正のある馬となるわけです。
上位馬と下位馬の間でタイム差が大きくなるのもそのためです。しかしそこは早熟馬、後がなかなか続きません。
後々古馬になって活躍するのはひまわり賞馬ではなく、勝てなかった馬や出走できなかった馬が多いですからね。
だから正直、九州産馬が「弱すぎる」とは思えません。昔に比べて特に最近は九州産なのによく頑張っている方。
コウエイロマンから復活の兆しが見え始めテイエムチュラサンコウエイトライテイエムトッパズレなどの
JRA重賞馬のほか、コウエイノホシテイエムヨカドーなど地方ダートでの活躍、オープン勝ち馬も増えています。
日本の競走馬生産のうち九州産馬はわずか1%ほどしか占めていないのですよ。それでこの活躍ぶりはむしろ
褒められはしても貶されるのはちょっとおかしくはないでしょうか。地理的に大きなハンデを抱えつつこれですよ。
どうも皆さん夏の小倉の時期、ひまわり賞などの九州産馬限定戦だけを見て弱いと信じ込んでいるだけのような。
ひまわり賞を勝った馬が後に高賞金を持ちすぎて上位クラスではなかなか勝てず苦労するのは昔からのことです。
それはひまわり賞馬に限らず、夏の早い時期のオープン特別を勝った馬にとっては共通の苦しみです。この時期に
活躍できるのはほとんどが早熟馬ですから、別に九州産・ひまわり賞馬に限った話ではありません。
函館・札幌の北海道開催でホッカイドウ所属馬が活躍できるのも中央馬のレベルが全体的に低い証拠です。

2歳オープン特別の改善案

例の記事に対する反論のようなもの - 座布団が行司にクリーンヒット
以前↑こちらでも同様のことを書きました。ひまわり賞でせっかく賞金を稼いだのに後々苦しむことになり、さらには
他所から批判を受けるようであればたまったものではありません。ひまわり賞に限らず2歳オープン競走全体を
変えていく必要はあると思います。対策としてはこの時期の2歳オープン競走全部を500万下特別に格下げすること。
以前は2歳オープンではなく400万下特別だった時期もあるわけですから、ただ以前の状態に戻すだけです。
早い時期に出走させて得られる高賞金というアドバンテージを残したいのであれば、総額賞金はそのままに据え置いて
計算上の加算賞金だけを500万下程度に抑えること。馬主や関係者が得られる賞金はそのままで、馬の持ち賞金に
加算する分は抑える。さすがに2歳重賞に関してはそのままでもいいかもしれませんが。こうすればこの時期の
2歳OP勝ち馬が3歳以降の重賞やG1に出走して「有力馬の出走枠を奪うな」と批判されることもなくなるでしょう。
そもそもこの批判も狂っていると思いますが…賞金を稼いで出走権があるのであれば、何の文句を言われる筋合いは
無いはずですから。そしてなぜかこの話に関してはひまわり賞だけ叩かれる傾向がありますが、不思議でなりません。
2歳競走体系全体の問題として論じられるのならば分かりますが、九州産馬限定戦だから、だけでは理由に欠けます。
とりあえず叩きやすい(叩いても批判が少ない)所から叩いておこうというような意見に同意することはできません。
ひまわり賞の改善案としては他にも時期を移して明けの小倉開催で3歳OPとして行い、代わりにたんぽぽ賞を
夏に持って来れないかとか、考えは色々とあります。ついでに言えば霧島賞も、賞金はそのままでもいいので
出走条件だけはオープンにしてもらえばレースレベルは今以上に上がるのではないかとか。強いOP馬がいると
何年間も独占されるのではと思ったりもしますが、霧島賞には過去優勝馬に対して斤量が+1kgされるという
特別な規則がありますから連覇は難しいですし、昔から勢いのある下級条件馬が上位クラスの馬を倒すことが
多かったレースなので、オープンにしたとしても特に問題は無い気がします。そもそもそんなに強いOP馬がいれば
霧島賞の賞金などには目もくれずもっと上に目標を立てるでしょうし、下級条件馬が出走できなくもならないだろう。
2歳OPに関してはひまわり賞だけのことと考えず、全部の面で考え直していかなければならない問題でしょう。
これらどれかがもし実現されれば、九州産2歳馬自体のレベルはそのままでも各種批判は減るような気がします。


ついでに毎年のように限定戦の時期になると出てきがちな九州産馬初心者の疑問に対する説明をしておきましょう。
九州産限定競走に同じ馬主が多頭出しする理由ですが、同じ馬主さんがたくさん九州産馬を所有しているからです。
説明終わり…ではダメですか。テイエムの竹園氏、カシノの柏木氏、マルシゲの坂東島氏、コウエイの伊東氏など
皆さんオーナーブリーダーJRAの馬主免許を持っているので自分のところの生産馬を走らせることができます。
しかし九州の他のほとんどの生産者さんは地方の馬主免許を持っている方は多いのですがJRAの免許は持っていない
ところが多いのです。だからセリ市に上場するわけですが、全部の馬が売却されるわけではありませんし、
今年のようにトレーニングセールが中止になる事態もあります。そこで九州の生産者に手を差し伸べているのが
自身も生産者である柏木務オーナーです。柏木さんは鹿児島県軽種馬協会会長も務めている九州生産界の
トップとも言うべき存在で、積極的に九州産馬を購入してJRAに所属させています。だからと言って何から何まで
全頭購入しているわけではありません。当然目利きをし吟味してセリを通じて馬を購入されています。
競走馬として生まれてきたからにはまず出走しなければ活躍するチャンスすらありません。柏木さんはできるだけ
そのチャンスを与えようとしているわけです。他の多頭出しのオーナーはほとんどが自牧場生産馬ですが
柏木さんだけは他の牧場生産馬も多数所有しているのです。「九州産馬限定戦は一部オーナーが独占している」
と言われがちですが、他の馬主さんもどんどん九州産馬を買ってJRAで走らせればいいだけです。あるいは九州で
生産を行えばいい。繁殖牝馬だけ所有して九州の既存の牧場に生産を委託するという手もあります。
どうぞ来年から九州1歳市場、九州トレーニングセールに来場されてみてはいかがでしょうか。
次に、ひまわり賞に未勝利馬が登録する理由について。以前説明したので省きます↓。
ひまわり賞が行われます - 座布団が行司にクリーンヒット

終わりに

ここまで長々と書いてきましたが、すべて私が正しいことを言っているとは思っていません。たかだが一ファンが
素人意見を振りかざしているだけに過ぎません。九州産馬がこれから強くなり、馬産地が活性化していくためには
どうすればいいのか、もっと良い意見があれば皆さんから教えていただきたい。プロの人にもうかがいたい。
九州産馬だけが良くなればいいことではありません。生産界全体が良くなっていってほしい。それだけでなく今の
日本の競馬界が抱える課題、特に最近は地方競馬の売上不振や生産地の疲弊などそれぞれ独立した問題ではなく、
競馬界全体で取り組んで行かなければならないことだということです。とかげの尻尾きりにするのではなく、
いつかは自分たちにも降りかかってくるかもしれない火の粉だと考えて一緒に考えてほしい。
自分に近い周りの自分の好きなものばかりに目が行ってしまいがちですが、
これらは全てどこかに繋がり関係しています。問題に対しての無関心、無視こそが最大の害悪です。
特に日本の競馬界、馬生産界を引っ張る存在であるJRAには現状を鑑みてもう少し考え直してほしいと強く願います。
今となっては日本競馬のこれ以上の衰退を止めるのはJRAにしかできない(かもしれない)のですから。
九州産の話から色々と飛んでしまいましたが、これからも九州産馬をよろしくお願いします。