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事故記 その13

そしてまたですよ。車のバンパーを開けるからちゃんと見てみろ、と言い出したんです。
そしてまた保険屋さんのことを言い出しました。なぜ事故と関係ないアイツが来るんだ、と。
ここまで、話をしているのは相手の親父さんと弟さんのみ。本人は何も口に出さない。
本人に口出させたくないのだろうか。そこで父が言いました。
「保険屋さんのことを言うならあなた方だってそうでしょう。なぜ本人と話をさせてくれないんですか。
 もう30歳も過ぎてるんでしょう?ウチの息子はまだ学生ですから、親権を持つ私がこうして
 出てきてはいますが、もし学生でなければ全てコイツ(私のこと)一人でしなきゃいけない。
 でもあなたの息子さんはもう一人前に働いているじゃないですか。
 どうして貴方はまだしも弟さんまでしゃしゃり出てこなきゃいけないんですか?」と。
こうして書いた以上にもっとバカ丁寧な口調で尋ねました。
すると親父さんは口ごもって何を言っているのかわからない。弟の方もただ怒鳴るだけ。

それまでずっと我慢して聞いていた父が勘弁ならなくなくなって切り出しました。
「私達は示談の話に来たんです。事故の程度は査定でちゃんと出ているでしょう?
 こんな話をしに来たわけじゃないので今日はもう帰ります。」と。
父も相当怒っていたと思いますが、ここは冷静な声でそう伝えました。
相手は引き止めようとしましたが、父が私に合図して外に出て、帰ろうとしました。
すると、それまで静かにしていた事故の当事者のあの人が外に出てきて、

・・・父の足にしがみつき(!)、大声で泣き出したんですよ。
「帰らないで下さいよ○○さ〜ん! お願いですよ〜、車見て行ってくださいよ〜!」

私は、大の大人がこんな風に泣くなんてことは生まれて一度も見たことがありませんでした。
ただただ呆気に取られるばかりでした。本当に、ビックリしました。異常です。
明らかに異常ですよ。だって、足にしがみついて泣き叫ぶんですよ?到底理解できない。
あくまでも父は冷静でした。ここでしがみついているのを振りほどいて相手に怪我でもさせたら、
また今度は慰謝料まで請求されかねませんから、「落ち着いてください」と声をかける。
それからもずっと、10分以上しがみついて泣き叫ぶだけでした。
近所の人が何があったのかと集まってきましたが、それでもそのままでした。