座布団が行司にクリーンヒット

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『たいようのマキバオー』阿蘇の牧場編 「持ち込みのエセ九州産馬」

ネタバレを含みますのでご注意ください。
九州産馬ファンとしては見逃せない展開となって参りました。これまでこういった(有名な)競馬漫画の中で
ちゃんと九州産について語られた漫画はたぶんなかったと思います。そもそも九州産馬が出てくることすら珍しい。
(『優駿の門』で菊花賞馬バトルハートが九州で種牡馬入りしたという話があったと聞いたが)


ヒノデマキバオーが荒尾に遠征してくれたおかげ(笑)で登場したライバルのギガモッコス九州産馬
前にも述べましたがたんぽぽ賞を制すなど、荒尾所属ながら能力の高さを感じます。
そのことについても今回は語られていましたね。彼の仲間の中でギガモッコスは自慢の存在のようで、
同じ九州産馬でも持ち込み(北海道まで繁殖牝馬を連れて行って種付けし、九州で生ませた仔)の九州産が多くいて
大レースを軒並み掻っ攫っていく中で、ギガモッコスは仲間達と同様に純粋な九州産馬(九州の種牡馬を種付けし
九州で生まれた仔)であり、彼らの言い方からすれば持込の「エセ九州産」を向こうに回してJRA勢などに土をつけ
たんぽぽ賞に勝利したのはまさしく快挙なのでありました。実際に現実世界でもそうですからね。
九州産馬」というレッテルだけで馬主たちに軽視され買い手が付かずに競走馬にすらなれないこともある多くの
九州産馬の仲間たちにとってギガモッコスの活躍は、彼らの地位向上に繋がるのではと期待しているということ。
………実によく調べているなぁと、そして実に直球だなと思いました。
それは地方競馬に対して常に直球で相対しているこの漫画が九州産に関してもそうなんだなと。凄いやつの丸さん。
「エセ九州産馬」というのがまた痛烈ですよね。つの丸さん本人からの批判も含んでいるような気がします。


九州産馬」という言葉から一般の競馬ファンが連想するものはどういうものがあるでしょうか。
夏の小倉に限定新馬戦が行われるとか、荒尾競馬場霧島賞があるとか、色々あると思います。
それよりも何よりも多くの人たちが抱いているのは「九州産馬は弱い」という固定観念ではないかと思うのです。
いや、実際に弱いんです。レースで負けてばかりだから皆さんそのように思っていらっしゃるのでしょう。
そして逆に嫌われている面も応援している身としてはふつふつと感じるのです。
「どうして九州産馬だけ限定戦があって恵まれているのか」「ひまわり賞を勝った馬はその後1勝もできない」
ひまわり賞を勝っただけで賞金を稼いでG1に出てくるな、枠が一つ消えるじゃないか」などなど……これらは
実際に私がネット上で見た意見です。このような意見があるということは事実は事実として認めなければならない。
この中には改革していかなければならない部分もあると思いますしね。(これは完全に私見ですが、たとえば
ひまわり賞をオープンから500万下に格下げして、別に500万下のレースをたんぽぽ賞までの間に一つ設けるとか。
本当に強い馬はこれら500万下のレースをステップにして上のクラスでも戦っていけるはずだし、デビューを早めて
夏の小倉開催に間に合わせようと無理に調整するようなことも少なくなるんじゃないかと思うんですけどね。
ただ、ひまわり賞という大きな賞金をモチベーションにしている生産者さんたちもいるわけで……弊害もある。)
最近ではコウエイトライコウエイノホシテイエムチュラサンなど重賞を勝つ活躍馬が出てきてはいますが、
九州産=弱いという固定観念は拭えてはいません。だからセールでの価格はいつまで経っても安いままだし、
買い手が付かなければ足元を見られて買い叩かれることもしばしば。悪循環なんですよね。
本当ならばもう少し評価が高くてもいいはずの馬が真っ当に評価されない、これが一番いけないことだと思う。
この漫画の中ではそういう馬たちや牧場のことがかなりリアルに表現されていると思います。


以前私も持ち込みの九州産馬に関して思いの丈を書いたことがありました。
テレビ東京『ガイアの夜明け(競走馬ビジネス)』を見て - 座布団が行司にクリーンヒット
基本は否定的なことを書いています。九州産限定レースが本来の意味で「九州の馬産を活性化させる」ことに
あるとするならば、九州にいる種牡馬を種付けして九州で生まれた純粋な九州産馬にしかその出走権は付与される
べきではないのではないかと。持ち込み九州産馬はまさに「エセ九州産馬」として条件から除外すべきなのでは…。
仮にそれでレースの質が下がったとしても、九州の生産地活性化のためにはそちらの方がいいんじゃないかと。
そんなふうに考えていた時期が俺にもありましたAA略)。


最近では少々考え方が変わりつつあります。実際問題としてそれでは九州の牧場は成り立っていかないんですよね。
九州の種牡馬が北海道にように多種多様で選択肢があり、どの馬も質が良いのではれば話は別ですけど、
九州で繁養されている種牡馬は数が少ないですし、質も高くはありません。新種牡馬が導入される際に
実績馬が来ることはまずありません。未知数な馬が生産者の挑戦的に繁養されることはありますけどね。
むしろ少し前までは北海道で失敗した種牡馬たちが最後の最後に流れ着く流刑地のような存在でもありましたから。
シンウルフマークオブディスティンクションのような種牡馬がいた時代ならまだしもね。
生産者だってただ九州産限定戦を勝ちたいだけではありません。一般戦で活躍し、いつかG1を制すような馬を
作りたいと常に思っているわけで、その為に北海道の質の高い種牡馬を選ぶというのは当然の話。
それだけでなく、走る馬を作らなければ生産牧場としての価値がありませんし、売れる馬を作っていかなければ
牧場として食っていけないわけですから。そして今、競馬界全体でも危惧されていることですが、同じ系統の
種牡馬ばかり種付けされていくと、いつか血統の行き止まりに嵌ってしまうと。血の入れ替えは大事なことで、
色々な系統の血が常に出たり入ったりしていることが理想です。その点では新しい繁殖牝馬を導入したり、
ちょっと違う種牡馬を種付けしたりすることは大切なことです。同じ種牡馬に偏っていては害も起こりうるのです。


ただやはり、それとはまた少し違った意味で「ちょっとやり過ぎなんじゃないかな」と思うこともありますけどね。
今回の話を見て真っ先に思い浮かんでしまったのは、上で紹介しているリンク先で以前も書いたように
テイエム牧場さんなんですよねぇ(苦笑)。他の皆さんもそうだったりはしませんか?
まぁテイエムさんはそういう持ち込み九州産が多くて目立っちゃうんですよね。それこそ前にも書いたように、
全てテイエムオペラオー産駒(とテイエムサンデー産駒)ばかりにせずに一部は九州の種牡馬を種付けするとか、
育成は完全に九州でやるとか、方法はいくらでもあると思うんですよ。今のままでは「まさしくエセ九州産だ」と
感情的にどうしても批判されてしまう。強い馬を作りたいという努力と考え方は大いに認めていますけど、ね……。


九州産馬の本当の意味での地位向上という点では、現役馬の中ではハンターキリシマに期待してしまいますよね。
この馬は父が(今は北海道に移動してしまいましたが)九州の種牡馬であるサイレントハンター
母が良血であるならば九州の種牡馬でも十分にやれるというのを実際に走りで示してくれた例です。
九州1歳市場の出身でもありますし、九州のセリ市にとっても今後の活躍次第で救世主になり得るかもしれない。
まさにギガモッコスと同じような期待を現実に抱いてしまうんですよね。
だって九州のセリ市で200万円程度で買われた馬が、数千万円もした馬たちに次々と土をつけているのですよ?
しかも父はあまり評価されていない。これほど痛快な馬はなかなかいませんよ。
今はG1に一番近いのはコウエイノホシだと思うけれど、ハンターキリシマにはそれ以上の期待をしてしまうなぁ。
いつかいつか、芝のG1を制するくらいまで出世してくれたらなぁ……。


話が少しズレましたか。
たいようのマキバオー』で今後九州産がどのような扱われ方をしていくか、これから楽しみですね。